1925年1月26日、アメリカ・オハイオ州クリーブランドに生まれる。家業のスポーツ用品店を継ぐが、俳優の道を諦めきれず、イエール大学の演劇大学院に進学。その演技力を見出だされ、ニューヨークでテレビや舞台を中心にキャリアを開始。ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドと共にアクターズ・スタジオで学び、1953年ブロードウェイの舞台「ピクニック」で一躍脚光を浴びる。『銀の盃』(54)で映画デビュー、初主演作『傷だらけの栄光』(56)に続き、『長く熱い夜』(58)でカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞。『熱いトタン屋根の猫』(59)でアカデミー賞主演男優賞に初ノミネート、『ハスラー』(61)で英国アカデミー賞男優賞を受賞、さらに『暴力脱獄』(67)で再びオスカーの有力候補に。名実ともに世界的トップスターの地位を築き、『明日に向って撃て!』(69)は大ヒットを記録し、『スティング』(73)『タワーリング・インフェルノ』(74)『評決』(82)などの話題作を経て、『ハスラー2』(86)で初のアカデミー賞主演男優賞に輝く。その後も『ノーバディーズ・フール』(94)でベルリン国際映画祭の銀熊賞(男優賞)を受賞。監督にも挑戦し、デビュー作『レーチェルレーチェル』(68)はゴールデングローブ賞最優秀監督賞を受賞。熱心なレーシングカー・ドライバーとしても知られ、また食品会社「ニューマンズ・オウン」を自ら経営し利益を全てチャリティーに寄付するなど、実業家や社会活動家としても活躍。2008年、83歳で逝去。
西部開拓時代から20世紀初頭にかけて銀行や鉄道を襲撃した実在のアウトローの物語であり、アメリカン・ニューシネマを代表する作品。ニューマンは、頭の回転が速く、銃やナイフよりも言葉を武器にするブッチを茶目っ気たっぷりに好演。相棒の恋人エッタを“未来の乗り物”自転車に乗せて走り回るシーンでは、美男子ロバート・レッドフォード顔負けの色香を発散し、女性ファンのハートをわしづかみ。今も普遍の煌めきを放ち、西部劇の傑作としても名高い《青春映画の金字塔》。
■監督:ジョージ・ロイ・ヒル ■出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス
[1969年|110分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|原題:Butch Cassidy and the Sundance Kid] © 1969 Twentieth Century Fox Film Corporation
[1969年|110分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|原題:Butch Cassidy and the Sundance Kid] © 1969 Twentieth Century Fox Film Corporation
主人公エディは勝ちに固執して自滅したり、ホテル代を浮かそうと女性をナンパしたり、恋人の財布から金をくすねたりと冷静に見るとダメ男。しかしニューマンが演じると、負け犬ですらかっこいいのだ。サラを演じたパイパー・ローリーが後のインタビューで「彼が美しいから、撮影中に気が散って困った」と語ったのも納得である。ニューマンは、エディが数々の障害を乗り越え、人間的に成長するさまを抑制した演技で見事に体現。まさに役者としての円熟期に差し掛かった60年代初期のニューマンの芸術性を方向付けたとも言える作品。後のマーティン・スコセッシ監督、トム・クルーズとの共演による続編「ハスラー2」も製作され大ヒットとなった。
■監督:ロバート・ロッセン ■出演:ジャッキー・グリーソン、ポール・ニューマン、ジョージ・C・スコット、パイパー・ローリー
[1961年|135分|アメリカ|モノクロ|シネマスコープ|原題:The Hustler] © 1961 Twentieth Century Fox Film Corporation.
[1961年|135分|アメリカ|モノクロ|シネマスコープ|原題:The Hustler] © 1961 Twentieth Century Fox Film Corporation.
ニューマンが演じるブリックは、絶世の美女エリザベス・テーラー(が演じるマギー)をして、「私を夢中にさせる美貌」と言わせる南部紳士。冒頭から思い詰めた目つきをしていて、美しくセクシーな妻の誘惑を拒むあたりから、何やら訳ありなのは一目瞭然。マッカーシズムが吹き荒れ、同性愛者への偏見が強かった時代にホモセクシュアルと推察されるキャラクターを堂々と演じたニューマンの演者としてのチャレンジ魂とリベラルな人間性にも感動するはず。人間のエゴイズムと愛憎を描き、ピュリッツァー賞にも輝いたテネシー・ウィリアムズの名戯曲が、ニューマンと大女優“リズ”の競演で見事に映画化され大ヒットとなった。
■監督:リチャード・ブルックス ■原作:テネシー・ウィリアムズ ■出演:エリザベス・テーラー、ポール・ニューマン、バール・アイブス
[1958年|108分|アメリカ|カラー|アメリカンビスタ|原題:Cat on a Hot Tin Roof] © 1958 WBEI
[1958年|108分|アメリカ|カラー|アメリカンビスタ|原題:Cat on a Hot Tin Roof] © 1958 WBEI
ポール・ニューマンのカリスマ性が際立つ人間ドラマ。彼が演じたルークは体制に屈することなく、どんな戦いでも負けを認めない、“不屈”の象徴。賭けでゆで卵を50個食べたり、厳しい懲罰中も涼しい顔で笑うルークの無軌道さが印象的だ。ニューマンの笑顔モンタージュとなっているエンディングからもわかるが、血や土、汗にまみれていてもチャーミングという奇跡的存在なのだ。強大な権力に挑み続ける≪永遠の反逆児≫ポール・ニューマンの真骨頂とも言うべき快作。
■監督:スチュアート・ローゼンバーグ ■出演:ポール・ニューマン、ジョージ・ケネディ、J・D・キャノン
[1967年|127分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|原題:Cool Hand Luke] © 1967 WBEI
[1967年|127分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|原題:Cool Hand Luke] © 1967 WBEI
アクターズ・スタジオ出身の俳優がハリウッド進出し、斬新なメソッド演技で観客を魅了し始めた50年代に活動をスタートさせたポール・ニューマン。いわば、古き良きハリウッドを知る世代最後のアイコンだ。彼が得意としたのは、葛藤を乗り越えて贖罪と許しを得る負け犬役で、スターダムを駆け上がるきっかけとなった『ハスラー』のエディはその金字塔。『暴力脱獄』で演じたルークは無鉄砲に勝負を仕掛けては、負け続ける(唯一の勝利がゆで卵50個を食べる賭け!?)。エディもルークもまさにダメ男なのだが、ツッパリ続ける姿が母性本能をくすぐり、とても愛しく思えてくる。『熱いトタン屋根の猫』で演じた、手に入らない愛を求めて苦悩するブリックもまた精神的には負け犬だ。ただし負けを認めての大団円が実に50年代的で、ロマンス小説のようなエンディングもニューマンだから説得力が加わったと言える。一方、負けても懲りないのが『明日に向って撃て』のブッチだ。「ジョン・ウェインは逃げない」と昔気質の映画会社社長が難色を示した脚本だったが、悲惨な状況でも常に前向きで、最後の最後まで軽口を叩く明るいアウトローにニューマンがチャーミングな息吹を吹き込み、映画史に残る作品となった。
リー・ストラスバーグの薫陶を受けたリアリズムを追求する演技だけではない。ブロンドとベビーブルーの瞳、いたずらっ子のような笑顔で老若男女をノックアウトしたニューマン。映画界に輝かしい功績を残し、今なお多くの俳優をインスパイアし続ける彼の弾けるようなエネルギーを感じてほしい。